現実世界に手を加えた写真

2026.09.01PHOTO and WOLF

FUJIFILM X-E4とVoigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4で撮影した写真

FUJIFILM X-E4 / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

「写真に手を加える」そう言うとフェイク画像で事実を捏造しているような響きがある。整形手術で顔を変えるように「いじっている」に肯定的な感情を抱けない人も多いだろう。しかし、手を加えない写真は本当に「事実」だろうか?ありのままを再現しているのだろうか?写真や映像がどんなにリアリティを追求しても切り取られた瞬間から事実とは違ったものになる。そのことを我々は知る必要がある。

写真の明るさや色合いを編集することまで「レタッチ」と呼んでいる人もいるようだが、デザインの業界では「部分的な合成」のことを指している。広告で使うタレントの肌のシミやニキビを消し込んだり、瞳のコントラストを上げたり、服の色合いだけを変更したり、建築写真に写り込んだ電線を消したり曇り空を青空にしたり、広告に使うための写真素材をより良くするためのブラッシュアップが「レタッチ」だ。やり過ぎると嘘っぽくなるので加減が大切で、タレントの肌をレタッチするときには完全にツルツルにはせず、少しくらい欠点を残しつつ仕上げるのが良質なレタッチだ。僕は仕事で関わることがなかったが某タレントの場合、ただでさえ整形してるのにガッツリメイクした顔で撮影し、撮影後は事務所からもっともっとと肌をツルツルにする指示が入ったと聞く。ポスターになったその顔は誰が見ても完全にCGである。安っぽいレタッチは写真と被写体を安っぽくさせる、というわかりやすい例だ。レタッチを専門にしたレタッチャーという職業もあって、広告ではタレントに限らず商品、料理、景観と様々な写真がレタッチされている。もちろんレタッチ不要の広告写真もあるが、多くの場合必要に迫られてレタッチされる。あからさまに合成というものから、飛び出た1本の髪の毛を消すだけというものまで、レタッチの程度も様々だ。コントラストや色の調子を変えて写真に風合いを追加することを「レタッチ」とは呼ばない。

SONY α7CIIとMINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8で撮影した写真01

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

SONY α7CIIとMINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8で撮影した写真02

SONY α7CII / MINOLTA M-Rokkor 28mm F2.8

趣味で写真を撮る人の中には、写真のレタッチについて懐疑的な人もいるようだ。写真は記録であり事実に基づいた状態を維持せねばならぬ、と思っているらしい。何と言うか、それは少々世界が狭い考え方に思える。「撮って出し」と呼ばれる自分で手を加えない画像の信奉者も同類で、それは「写真は真実を写す」と誤解していることに関係している。あくまで写真は現実を違う形に保存したものであって、写真は真実ではない。複写であり偽物である。だから躊躇せずに色の調子を自分流に変えて余計なものはレタッチして消し去ればいいのだ。写真を嘘っぽくしたくなければリアルにレタッチすればいいし、誰にも迷惑をかけないならあえてノンレタッチにこだわる意味などない。

チルトシフトを使った撮影を楽しみたくて、TLT ROKRというアダプターを入手した。アメリカのメーカーがつくっている風変わりなマウントアダプターで、レンズを傾ける「チルト」とレンズをずらす「シフト」ができるようになる。

TLT ROKRとF.ZUIKO auto-s 50mm F1.8の写真01

TLT ROKRとF.ZUIKO auto-s 50mm F1.8の写真02

チルト機能でよく知られるのは「ジオラマ風」の世界だ。高いところからレンズを傾けて上下をぼかすと、まるでジオラマを撮ったような雰囲気になるアレである。TLT ROKRはレンズを傾斜させながら360度回転することができるので、上下のボケだけでなく斜めや垂直のラインにピントを合わせることができる。これにより、まるでライカのノクチルックスで撮ったような極端に被写界深度の浅い写真や、近くと遠くの特定の部分にピントが合っているのに他はボケているといった不思議な写真を撮ることができる。通常のレンズでは絶対につくりだせない極端なエフェクトと言えるだろう。これが、かなり面白い。ボケをつくるだけでなく、F値を絞らなくても手前から奥までピントが合う状態もつくりだせる。残念ながらライカMマウントに対応した製品はないので、割と軽量コンパクトなオリンパスのオールドレンズF.ZUIKO auto-s 50mm F1.8を組み合わせて表現を模索中だ。

SONY α7CIIとOLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8で撮影した写真01

SONY α7CII / OLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8

SONY α7CIIとOLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8で撮影した写真02

SONY α7CII / OLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8

SONY α7CIIとOLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8で撮影した写真03

SONY α7CII / OLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8

SONY α7CIIとOLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8で撮影した写真04

SONY α7CII / OLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8

SONY α7CIIとOLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8で撮影した写真05

SONY α7CII / OLYMPUS F.ZUIKO auto-s 50mm F1.8

チルト機能を使って撮影すると、僕らが実際に見ているのと明らかに違った状態で現実が写真に定着される。事実をソース元にしていても、写真には事実とは違うものが写る。それが面白い。写真を熱心に撮り始めた頃「あぁ、レンズを通して世界をみるとこんなにイイのかぁ…」と興奮したが、それと同じ感覚である。世界を肉眼と違った状態で捉えるということで言えば、ストロボを使った撮影も同じだ。逆光で暗くなる被写体を明るくしたり、人工的な光源で強い影をつくったり、ストロボ撮影はこちらの都合で見え方に手を加える行為である。プロっぽく上品にストロボを使っても、素人っぽく下品にストロボを使っても、いずれにせよ世界に手を加えていることに違いはない。

ストロボ撮影:LUMIX LX3:1

Panasonic LUMIX LX3

ストロボ撮影:LUMIX LX3:2

Panasonic LUMIX LX3

ストロボ撮影:Nikon D3000:1

Nikon D3000 / Nikon AF-S DX Zoom-Nikkor 18-55mm f/3.5-5.6G ED II

ストロボ撮影:Nikon D3000:2

Nikon D3000 / Nikon AF-S DX Zoom-Nikkor 18-55mm f/3.5-5.6G ED II

モノクロ写真も明らかに世界を違ったものに再現している。実際には世界はカラーなので、再現というよりも「表現」していると言った方がいいかもしれない。モノクロで撮影した写真の現像は、色を気にする必要がないのでカラーよりも手がかからない。とは言え、意図した写真にするためには部分的に明るさを調整したり、特定の色だけを暗くしたりといった調整をした方が写真がよくなるケースが多い。何が何でも現像で編集する、というわけじゃないが、少し手を加えるだけで写真がよくなるので面倒でもやるしかない。モノクロセンサーで写真を撮ったことがないのでその辺の事情はわからないが、カラー情報があるRAWから現像するなら「緑色だけ明るくする」「空の青色だけを濃くする」といった調整ができるのも有難い。アナログ時代は物理的なレンズフィルターを使って色々工夫してたんだろうな、と思う。いまはデジタル現像でかなり楽になった。

SONY α7CIIと Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4で撮影したモノクロ写真01

SONY α7CII / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

SONY α7CIIと Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4で撮影したモノクロ写真02

SONY α7CII / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

SONY α7CIIと Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4で撮影したモノクロ写真03

SONY α7CII / Voigtlander NOKTON Classic 35mm F1.4 Ⅱ

SONY α7SとVoigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5で撮影したモノクロ写真01

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

SONY α7SとVoigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5で撮影したモノクロ写真02

SONY α7S / Voigtlander SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 Ⅲ

僕が広角レンズを好きな理由は、世界がレンズによって歪められて肉眼とは違った世界が写るからだ。望遠レンズはあまり使わない方だが、望遠レンズが好きな人の理由も同じような気がする。韓国ドラマやK-POPに登場する韓国人を見ると「色が白いなぁ」とか「肌がキレイすぎる」とため息がでる。シミひとつない真っ白な生足を画面で見ては、はぁ〜っとため息が出る。オジサンはとにかくため息が出るのだ。確かに韓国の人は肌がキレイだ。しかし、画面で見る白さはライティングの効果が抜群に効いていることも事実である。映像も写真も、人によって手が加えられている。ある意味、捏造されているわけだが、それはそれでいいじゃないか。捏造感満載で安っぽくなって売り込みたい商品の価値が低くならないように節度を持って捏造するのがプロの技術なら、開き直って捏造を存分に楽しめるのがノンビジネスの写真撮りの特権だ。写真の中で世界を編集する、ささやかで壮大な楽しみである。

写真集販売PHOTOBOOK WOLF