来た道に戻る旅

2026.10.19PHOTO and WOLF

眼鏡

何年か前に医者に緑内障の初期だと言われて少しは気をつけていたが、ここへきてとうとう「発症している」と診断されてしまった。いますぐ失明するわけじゃないし、もしかしたら死に際まで今と変わらず裸眼で過ごしているかもしれないし、体のことは予測不能だがいままで以上に紫外線には気をつけないといけない。そこで家の外に出るときにはUVをカットする伊達眼鏡を必ずかけることにした。コンタクトという手もあるが、ちょっとだけ外に出るのにコンタクトをつけるというのも大変煩わしいので眼鏡の方が何かと簡単かな、と。喘息の薬、コレステロールを下げる薬、緑内障の点眼と、常用する薬が徐々に増えていく。やれやれ、ジジイの暮らしも楽じゃない。

サングラスをかけて写真を撮り歩く場合は、ファインダーを覗く度にサングラスを頭の方へ移動させていた。今度は透明なレンズなので眼鏡をかけたまま撮れるなと思っていたが、ファインダーから距離が離れて少々見にくい。結局、サングラスと同じように撮影時には眼鏡を上に避けてファインダーを覗くことになった。眼鏡をかけて写真撮る人の苦労が実体験をもって身にしみた。

ある日、いつものように写真を撮りに森の入口に辿り着くと、α7CIIのバッテリーがゼロになっていた。もしかしたら、前日から電源を入れっぱなしにしてたのかもしれない。運悪く予備のバッテリーを持ち合わせていない。モバイルバッテリーから充電を試みたが給電されるまで恐ろしく遅い。途方にくれて3分ほど口を開けてヨダレを垂らしたが、気を取り直してスマホで写真を撮ることにした。スマホでいい感じの写真は撮れないがロケハンみたいなもんだ、と自分に言い聞かせながら小さなスマホで写真を撮影する。僕のスマホは小さいという理由だけで使い続けている2022年発売のiPhone SEである。

カメラアプリはLightroomを使いrawで保存する。過剰に明るくならないよう少しアンダーに調整する。写真を撮りに出かけてスマホで写真を撮ることはまずない。老眼なので液晶が近すぎると見えないので、写真を撮る佇まいは老人が手を伸ばして撮るあのスタイルだ。スマホの安っぽいシャッター音が森に響き渡り何とも情けない気持ちになったが、意外なことに撮っている最中からいい感じの写真になる手応えがあった。

iPhone SEで撮影した写真01

iPhone SE

iPhone SEで撮影した写真02

iPhone SE

iPhone SEで撮影した写真03

iPhone SE

iPhone SEで撮影した写真04

iPhone SE

iPhone SEで撮影した写真05

iPhone SE

iPhone SEで撮影した写真06

iPhone SE

帰宅して現像してみると意外と悪くない。悪くないどころか結構いい。えっ?どうゆーこと?スマホでいいってこと?色々拘ってきたけど結局スマホ?それはまるでいい感じに格好つけてたのに唐突に後頭部をはたかれて自尊心を砕かれるような「えっ?」である。マジかよiPhone、すげぇなiPhoneと積み上げてきた自我がフライパンに落としたバターのように脳内で溶け出し3分ほど口を開けてヨダレを垂らす。ゆっくりと煙草を吸って自分を取り戻した後、スマホの小さなレンズとセンサーが受光する写真について考えてみた。よくよく考えてみたら明るいF値で深い深度が得られる小さいセンサーは、絞って撮ることの多い僕の撮影スタイルにあっている。フルサイズのボケは確かに魅力的だが、ボケかパンフォーカスかどちらかの選択を迫られたら僕はパンフォーカスを選ぶ。どういうわけか最近では、寄って撮るマクロ撮影よりもある程度空間を閉じ込めた写真を好むようになってきた。それは広角を求め、深い被写界深度を求める。ということは、センサーサイズの小さいカメラの方がいいのか。しかも解放でもストイックに描写するレンズ一体型か。

レンズ一体型コンデジの致命的な欠点は、センサーダストに対処できないことだ。無論、メーカーに送ればどうにかなる場合もあるが、電源を入れる度に伸縮するレンズの構造上ホコリの混入があるのは悩みの種だ。調べてみるとどうやらリコーのGRならアタッチメントと保護フィルターをつけてしまえば、センサーダストの煩わしさからは解放できそうだった。最新バージョンのⅣはバッテリーがⅢよりも持たないらしく、しかも使えるメディアがマイクロSDだったので前機種のRICOH GR IIIを中古で手に入れることにした。スモールリグの本革ケースやフードを加えたとしても重量わずか346gのカメラの出来上がりである。

RICOH GR IIIのフォーカスは遅いし、被写体をしっかり捉えるファインダーがないし、1つのバッテリーで200枚しか撮れないし、過剰な期待を持って使うカメラではないが、評判通りいいカメラだと思う。僕がいま撮りたい写真は、ほとんどこの小さなカメラで撮れる気がする。おまけにUVを避けたい僕にとっては、眼鏡を外さずに撮れるのもいい。マニュアルレンズばかり使ってきたので、カメラのオートフォーカスを信じられるようになるまで時間がかかりそうだが、クジラのようなおおらかな気持ちで付き合えばいいだけだ。アタッチメントのフィルター径がよく使う49mmなので、ソフトフィルターやNDやCPLもそのまま使えるし、レンズシャッターなのでシャッタースピードを気にせずストロボを使えるのも面白いところだ。

RICOH GR IIIで撮影した写真01

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真02

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真03

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真04

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真05

RICOH GR III

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真06

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真07

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真08

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真09

RICOH GR III

RICOH GR IIIで撮影した写真10

RICOH GR III

GRにたどり着いた経緯として、昨年から今年にかけてCCDコンデジのLUMIX LX3とRICOH GX200を使ったことも結構大きい。それにしても、まさかファインダーのないコンデジで写真を撮ることになるとは。しかも多くの人が気軽に撮るサブカメラとして選んでいるGRを、僕はメインのカメラにしようとしている。オールドレンズを試したりして熱心に写真を撮りだす以前、ずっと前のことになるが僕はコンデジで写真を撮っていた。F値とかシャッタースピードとか現像とか、そういうことは考えもしなかった頃だ。何も知らないくせに、何もできないくせに、シャッターを切ればいい感じの写真が撮れると思っていたし、根拠のない自信が常にあった。知識が増え、経験が増え、出来なかったことが出来るようになり、イメージを具現化できるようになり、身体が衰え、脳の回転が悪くなり、僕はかつて通った道に戻ろうとしている。

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